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ともしどブログ

目指せ脱アンドロイド。

ダメよぅ、ダメダメ。【ノベル練習帳】

「人生の分岐点まで、あと0.1kmです。」

 

じとっと湿ったボクの手に握られているスマホが予告する。

 

ボクは心を落ち着けるべく、立ち止まって目を閉じた。

 

「ピッ、ピッ、ピッ、ピッ」と、一定のリズムで鳴っているスマホの電子音のおかげもあってか、ボクは平常心を取り戻すことには成功したのだが・・・。

 

ボクはまだ、答えを出せていない。

 

「クソ・・・。」

 

何が正解か。

 

人生においては、考えても答えを出せない物事が多すぎる。

 

今だってそうだ。

 

わかるはずもない。

 

そんなの、わかるわけがない。

 

だって、ボクは童貞なのだから。

 

いきなりあんなこと言われたって、どうすればいいかわかるはずがないじゃないか・・・。

 

 

 

***

 

 

 

「もうヤダ。何もしたくない。つらい。苦しい。ヤダヤダヤダヤダ。ヤダよ。もう無理。限界。つらいつらいつらいつらい。苦しい。もう、ダメ。私を抱いて・・・。」

 

メッセージアプリに記されていた言葉は、これだ。

 

とりあえず、精神的にまいってしまっていることは誰が見ても明らかだろう。

 

問題は末文だ。

 

「私を抱いて・・・。」

 

これには困った。

 

なぜならボクは女の子を抱いたことがないからだ。

 

どうすればいいかは、さすがにわかる。

 

けれども、「思っているようにはいかない」と噂される行為だ。

 

無理がある。

 

そもそも、「抱いて」と言われて、抱いていいものなのか。

 

段階を踏むべきではなかろうか。

 

手をつないで、キスをして、ということではない。

 

「好き」、「うん」のくだりを端折っていいものなのか。

 

いや、ダメだ。

 

「好き合っている男女」という事実を言葉で確認してからでないと、ダメだ。

 

とはいえ、ボクたちは好き合っているのだろうか。

 

ボクは、好きだ。

 

かれこれ8年は片思いを続けている。

 

文句なし、だ。

 

しかし、彼女のほうはどうだろう。

 

ボクからの愛の告白を、幾度となく“文字通り”打ち破ってきた彼女が、ボクのことを好きなのだろうか。

 

ツンデレなのか。

 

いや、それはない。

 

あれは紛れもなく“ガチ”だった。

 

つまり、彼女からボクへの恋心はないはずなのだ。

 

認めたくはないが、彼女は今、「誰でもいいから抱かれたい」と思っているのかもしれない。

 

幸運なことに、ボクを選んでくれたのだろう。

 

やばい、超嬉しい。

 

愛なんて、なくていい。

 

8年をかけた想い人が、ボクに「抱いて」と言ってくれたのだ。

 

他に何を望むというのだ。

 

よぉぅし、行ったれ!

 

 

 

***

 

どれだけ考えても、答えを出せない。

 

抱きたい。

 

でも、抱いたらいけないような気もする。

 

「クソ・・・。」

 

ボクは考えるのをやめ、彼女の家に向かうことにした。

 

考えても決められないことは、考えても仕方がない。

 

「なるようになるか。」

 

ボクは、彼女の家に向けて歩を進めた。

 

 

 

***

 

 

 

「人生の分岐点まであと0.001kmです。決断を間違えないように。」

 

ボクは「間違えようもない・・・!」と無言で返答し、インターホンを鳴らす。

 

・・・。

 

・・・。

 

・・・。

 

・・・。

 

・・・。

 

反応がない。

 

ボクはもう一度、インターホンを鳴らしてみた。

 

・・・。

 

・・・。

 

・・・。

 

「ブ、ブ。」とスマホが音を立てた。

 

「いいよ、入ってきて。」

 

ボクはメッセージアプリに表示されている言葉を飲み込もうとしたが、ノドが全力で言葉の侵入を拒む。

 

はじめての彼女の家。

 

彼女は、出迎えにすら来てくれない。

 

彼女の家のドアを「コンコン」とノックしてみた。

 

反応はない。

 

「ブ、ブ。」とスマホが音を立てる。

 

ボクはスマホを手に取ることなく、改めてドアをノックする。

 

反応はない。

 

ボクはバッグから手帳を取り出し、走り書きしたメモを破り、ドアの前に置いた。

 

「レイプ ミー。」

 

 

 

fin.